LYNCSブログ

慶應義塾大学公認団体 宇宙科学総合研究会(LYNCS)のブログです。

死んでも技術書典では T シャツを売ってはいけないという話(技術書典 7 報告)

はじめに

技術書典で T シャツを売ってはならない。

もちろん「絶対にそうしなければならない」というわけではない。どんな物事にも例外や特異点は存在する。ただ少なくとも、今後うちの団体が T シャツに手を出すことは無いだろう。いや、そのような事態を許すわけにはいかない。

以下の文章は、前回に引き続き弊団体の技術書典 7 参加での責任者となった min による、技術書典参加サークル各位及び弊団体後輩への忠告であり、個人的な深い自省であり、高度なダイレクトマーケティングである。



結論

先に結論を言うと、弊団体が今回の技術書典 7 にて販売した「元素記号Tシャツ」は、事前の予想を遥かに下回りほとんど売れなかった。

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元素記号 T シャツ(Ts/U/Ra/I)

しかし、冷静に考えてみれば当然のことである。このT シャツは 1500 円で販売していたのだが、技術書典で 1500 円のTシャツなど誰が買うだろうか。技術書典には皆専門書を買いに来ているのである。1 冊でも多く本が買いたい! という中でわざわざ T シャツを買おうという物好きなど圧倒的少数派であることは、一般的な人間ならばすぐにわかることである。

また、これが一企業や超有名サークルならともかく*1、弊団体は前回の技術書典 6 が初参加の超ひよっこ無名サークルである。でっかく団体名を提示するようなデザインではないとはいえ、どこの馬の骨ともわからないサークル*2のネタ T シャツは、勢いでパッと買いやすいものとは言えないだろう。

デザインが求める需要にも問題がある。元素記号で「Ts/U/Ra/I」と表現したデザインは、間違いなく化学系の学業・仕事で忙しくしている人間をメインターゲットとしている。しかし、技術書典に来る人間の多くは情報系・数学系(このカテゴライズが適切かは知らない)に強い人間ばかりである。言ってしまえば、「$ alias emacs = 'vi'」とか「C# 完全に理解した」とか「犯人はヤス」とか「177事件」とか、そういう文字列が入った T シャツが求められている*3わけだ。そもそも、職場や研究室にこの T シャツを着て行きたくてたまらない人種が技術書典で悠長に買い物できるわけがないのである。事実、デザイン考案者は当日会場には来なかった。

これを読んでいる技術書典参加サークルの皆さんにアドバイスすると、「ツイートがめちゃくちゃバズった」とか「界隈で知らない者はいない超有名団体」とか、そういった「ほぼ間違いなく売れるであろう」という根拠がない限りは T シャツは売らない方が良い。いや、仮にこれらの根拠があったとしても、少部数だけ発注するようにすべきで、大量生産は避けるべきである。T シャツだけではない。基本的に、技術書典においてグッズ販売は「おまけ」である。専門書より高いグッズなど、このイベントでは買うべき優先度で考えれば最底辺に近い。数百円でステッカーや缶バッジを売る程度ならまだなんとかなるかもしれないが、T シャツは基本的にはやめておくべきである。

ちなみに、トートバッグとかならば、運営さんが無料で配布しているカバンが無くなってからなら売れるかもしれない。保証はしないが*4


 

では、何故このような商品が大量発注され販売されるに至ったか。その経緯について、以下で詳しく説明したいと思う。ちなみに、見事にプロジェクトを爆発四散させ、弊団体会計に多大な被害を与えたお気持ち表明 T シャツ、もとい元素記号 T シャツは、現在 booth にて絶賛販売中である。このブログの内容に同情した、同情はしてないけど純粋に欲しかった、とかならば、是非購入していただきたい。

lyncs.booth.pm



嵐の前

弊団体は、技術書典 6 での初参加を終え、技術書典 7 へも参加することになった。

技術書典 6 での売れ行きがイマイチならば参加しないことも検討していたが、予想外に評判が良かったので、続く 7 についても参加することになった。6 での経緯等は以下の記事に詳しく記されている。

lyncs.hateblo.jp

技術書典 6 において、私個人には大きな反省があった。それは「合同誌の売れ行き」である。上の記事を見ていただければわかるのだが、6 において配布した合同誌は全て完売したものの、合同誌はたったの 19 部だけ(しかも身内の購入がほとんど)である。この結果から、私は「個々人がそれぞれの専門について書くような合同誌は売れにくい」という教訓を得た。つまり、基本的には一分野一冊でなければ売れにくいのである。まあ、専門書の同人イベントなので当然と言えば当然ではあるが。この教訓を活かし、今回は「多少ページ数が少なくなっても、内容ごとに分冊して売る(その分安い値段設定にする)」という方針で部誌を作ることにした。

また、それとは別に会員 A から「量子本を修正したい」という申し出があった。量子本とは、技術書典 6 にて100部強の在庫が見事に売り切れた弊団体のベストセラー(?)同人誌である。

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量子本、こと「量子計算機科学序論」

A は、その文章に誤字脱字等を見つけたので、もし再販するなら修正したいと主張した。もちろん、こちらとしては願ってもない話である。量子本の筆者とも相談し、9 月までに修正点をまとめるように指示をした。

このように今回は「各会員による専門書(薄めかも)」と「量子本の修正第 2 版」を販売することになった。各会員による専門書については、最初は 4 種ほど執筆される予定だったが、原稿を落とす人間が相次ぎ、結局発行されたのは水中ロボコンについての報告・解説本 1 冊であった。

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水中ロボコン本、こと「宇宙サークルの学生代表が水中ロボコンに参加してみた」



「それなら」

事件が起きたのは、以上の出来事のそれより前のことである。いや、もしかしたらそこまでは遡らないかもしれない。ともかく、最初に「この案」について彼から相談を受けたのは、かなり前のことになる*5

彼とは、先ほど量子本の修正をしたいと申し出た会員 A のことである*6。彼は、かつて暇つぶしがてら制作しツイートしたという画像を持ち出し、「これをTシャツにして売ってはどうか」と話してきた。

それは「Ts」「U」「Ra」「I」の元素記号が並んだデザインだった。

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「Ts」「U」「Ra」「I」

一応、いきなりTシャツを作りたい云々という話になったわけではなかったと思う。元々、去年度の三田祭*7にて作成した「むーんにゃいと T シャツ」が話の前提にあった。

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むーんにゃいと T シャツ

これは、私 min がデザインした T シャツだったのだが、周囲の評判はイマイチで、作ったはいいが私ぐらいしか三田祭本番に着てこなかった。ただ、個人的には気に入っていたので、諦めきれず(もちろん冗談で)「これを技術書典で売ってやろうぜ」という話をしていたのである。そんな中で「それなら」と出てきた案がこれであった。いや、記憶が定かではないので、もしかしたら普通に提案されたものかもしれない。ともかく、提案した A も冗談のつもりであったのは確かだろう。



「お前は直感を信じない方が良い」

この見出しタイトルは、私 min が技術書典 7 終了後に会員 B から言われた言葉である。思えば、直感で冗談を採用したあの時から間違っていたのかもしれない。

技術書典の原稿執筆(結局これは間に合わなかった)、能代宇宙イベント*8及び水中ロボコンの手伝い、天文研究本部での合宿に関する仕事、そして兼サー先での仕事など、当時数多くのタスクに追われていた私は、なんとなくこの「元素記号のTシャツ」が売れるような気がしてしまった。そして、当時時を同じくしてタスクに追われていた会員 B も「技術書典なら売れるのでは」と答えていた。

A に確認を取ると、「売れると思ってるのお前だけでは」という辛辣な答えが返ってきた。だが、既におかしかった私は「いやあれは売れると思う」「理系には受ける、間違いない」と答えてみせた。それに対して A は「団体内で意見を募りたい」と至極真っ当な返しをした。そこで、Slack 上の技術書典について話すためのチャンネルにて、この元素記号による T シャツが売れるかの投票が行われた。

この時点で、本来ならば「流石に売れないのでは」等の意見が出てもおかしくはなかった。



おれは働いた。はじめは所属先の団体のためと信じて働いた。だが、タスクは増えるばかりで終わりがなかった。おれは疲れた。誰もかれもが疲れていた……。



この団体の、特に技術書典のチャンネルに参加する人間は、自身の趣味、インターン先、所属研究室、兼サー先の仕事で忙しくしている人間ばかりだった。そんな人間ばかりのチャンネルで「つらい」などと書かれた T シャツを販売するかどうかの投票を行ったのが間違いだったのかもしれない。

投票は「俺なら絶対買う」の声で溢れ、満場一致で T シャツの販売が決定した。



発注数について

一番の過ちはここであろう。「Ts U Ra I」の T シャツを作ること自体より、やはりここに問題があったと考えるのは、経緯を知る人間からすれば当然の判断である*9

発注数については、「50 枚以下」「50 枚」「100 枚」「150 枚」「200 枚」「255 枚」の 6 択で投票が行われた。私の脳は 8 bit なので、255以上の数を数えることができなかった。だが、この最大値制限はあまり投票には影響はなかった。

投票は、「50枚以下」と「150枚」は 0 人、「50枚」と「100枚」への投票数は完全に一致する、という結果となった。のちに某氏は「50 枚に投票した人間は比較的常識的な人間ばかりだった」とコメントしていたが、50 枚の方が選択として正しかったことは、後になって売れ行き確認と共に証明されることとなった。だが、当時はそんなことはわからなかったので、「100 枚」の方が選ばれることとなった。何故投票数が同数なのに「100 枚」が選ばれたかというと、私 min がたった一人で「200 枚」に投票していたからである。ここで俺が「50 枚」、または「50 枚以下」に投票していれば、話はまた違っていただろう*10

ちなみに、終了後に「お前は直感を信じない方が良い」と語った B は 50 枚に投票していた。考案者である A は「売れるのか?」と疑問を呈していた割に 100 枚に投票していた。



「俗世から遠のくと、内輪ノリが一般論に取って代わる。そして最高意思決定の段階では一般論なるものはしばしば存在しない……大学のサークルにおいては特にそうだ。」*11



準備

その後の準備はスムーズに進んだ。印刷を依頼した surishi さんの丁寧かつ迅速な対応もあり、T シャツはすぐに完成し発送された。私はあとは、それを技術書典会場に送り直すだけだった。

他の各種部誌についても、原稿落としが多発したものの、凄まじい修羅場を生むことなく順調に進行した(小規模な修羅場は何度かあったが)。

ツイッターでの評判も、なかなか悪くなかった。あとでわかったことだが、T シャツに反応してくれた人がそれなりにいるとしても、それらの人が本当に買ってくれるか、そもそも技術書典に来られるかは、別問題なのである。

前回の大成功の幻想に未だ浸っていたという点も大きいだろう。本番まで、誰一人として T シャツの完売を疑わなかった。疑っても、発注後では意味がないので口に出さなかったとも言うが。



爆散

結果は既に説明した通りである。正確な数量については明言を避けるが、100 枚の発注に対し 10 枚 〜 20 枚ほどしか売れなかった。水中ロボコン本と量子本がちゃんと利益を出したものの、それらを加えても圧倒的な赤字であった。

あくどい商売をしていると思われたくないので念のため補足すると、ここでの「利益が出た」というのは「印刷費よりは売れた」という意味である。執筆・校正・製本などにかかった手間は一切考慮していない。それらを含めれば同人誌など常に大赤字である。

T シャツをスペースに飾るのは確かにインパクトがあった。通る人の大半が二度見していたし、こちらを見てクスッと笑う人間も数多くいた。

ただ、いくら面白くても、わざわざ買う気にはならなかったようだ。わざわざ技術書典で買うほどの商品でもないと思ったのであろう。私もそう思う。

会場では、「Ts U Ra I」T シャツを着た筆者が、反省と哀しみの涙を堪えながら売り子を黙々と続けていた。



おわりに

まず、技術書典において T シャツは売るべきではない。売るにしても、少部数で行うべきである。

そして、T シャツに限らずとも「これは売れる!」と思った時には、一度冷静になってみて欲しい。自分なら本当にそれを購入するのか考え直して欲しい。所属団体も性格も宗派もまるで違う人間に一度意見をもらってみて欲しい。「本当にそうでしょうか?」と自分に何度も聞き直して欲しい。自分の中にいるもう一人の僕とかにも聞いてみて欲しい。「もっと売れたのに早い時間で売り切れてしまった」より「大量に売れ残ってしまった」の方が団体へのダメージが大きいと気付いて欲しい。とにかく、一度落ち着いて考えて欲しい。

とにかく、発注前にはちゃんと考えて欲しい。「なるよになるだば」*12とは言うものの、なるようになるのはなってしまった後の話であり、発注前ならまだ間に合うわけである。本当に、一度落ち着いて考えて欲しい。これが、私がこのブログで伝えたいことである。

そして、私がこのブログで一番伝えたいこと!

それは!


 


 


 


 


 


 


 


 

T シャツを買ってください、お願いします……。冗談抜きで「つらい」んです……。

lyncs.booth.pm



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*1:情報処理学会さんの「この分野は素人なのですが……」T シャツはそこそこ売れていたようだ。

*2:馬の骨サークルではない。某ステルスメジャーなおじさんとは関係ない。

*3:要出典

*4:一応、無料配布がなくなっても運営さんが公式でバッグを販売していたりするので、売れるとは断言はできない。T シャツよりは需要があると思われる。

*5:もう歳なので、記憶が定かではないのである。日常会話もログが残せられれば良いのだが。

*6:イニシャルとかではない

*7:弊大学に数ある学園祭の一種。

*8:弊団体が毎年出場している CanSat 大会、もとい、共同実験。過去の大会報告がブログにあると思うので、詳しくはそちらを参照していただきたい。

*9:知らなくても当然の判断であろう。

*10:255 枚への投票者も 0 人だった。そりゃそうか。

*11:このブログ中のネタに関しては、もはや内輪のノリですらないが……。

*12:ええだば ええだば