LYNCSブログ

慶應義塾大学公認学生団体 宇宙科学総合研究会(LYNCS)のブログです。

2019 年初島春観測合宿報告

我らが宇宙科学総合研究会 LYNCS の天文研究本部は、先日初島にて観測合宿を行った。苦労に苦労を重ねた地獄の観測合宿(?)の様子を、現天文研究本部副代表より、ここで簡単に紹介しようと思う。

1 日目

まず、我々の団体は一昨年にも初島での合宿に挑んでいる。その時の様子は以下の記事や、去年の三田祭にて配布された部誌などに記されている。 lyncs.hateblo.jp

上の記事を読んで頂ければわかることだが、この時には天候不良により初島への渡航そのものが失敗している。今回の合宿は、この前回の合宿での失敗を踏まえた上でのリベンジ合宿でもあったわけである。

さて、そんな思いを込めた合宿だが、初日はお世辞にも好条件と言える状態ではなかった。

これまで晴れ続きだった天候が突如悪化し、熱海にはそれなりの大雨が降り注いでいた。「バス代もったいないし駅から歩いて熱海港まで行くわ!」と意気込んでいたメンバーの大半が一瞬で手の平を返しバス移動を選ぶほどの大雨である。だが、風はそこまで強くなく、海も大荒れではないようで、初島への渡航は可能であった。それでも、その日の観測はもちろん、翌日の夜の天候すらも怪しい状況ではあった。「外国の船よりはマシ」などと会員には言われていたが、初島へ向かう船はかなり大きく揺れ動いており、それなりに波も高かったようである。

船上の様子

初島到着後は、観光などせず真っ先に宿へ向かった。それだけ雨が強くなっていたのである。今回は、「浜の内」さんという民宿にお邪魔した。宿は港からすぐ近くにあり、大雨の中で大量の機材を抱え移動する我々には本当にありがたかった。


さて、ここで天体観測において重要な点とは何か説明しておこう。長くなるので興味のない人は 1 日目の終わりまで飛ばして欲しい。

戦争、経営など様々な分野で活用される概念であるが、天体観測においても「戦略」と「戦術」が重要になる。戦争においては、大局的・長期的な策略を戦略、個々の戦闘における部隊の運用術などを戦術とするのが一般的だろう。天体観測においては「天候・地理的な条件の確認」を戦略、「観測地での機材運用及び作業分担」を戦術と呼称することができる。より大局的に見れば、各種観測を戦術に含まれるものとし、各種天文イベントに合わせた観測計画を戦略と見ることもできるが、それはもはや一団体の活動継続と発展を模索する上での戦術・戦略の概念を示したものであり、天体観測における戦術・戦略の概念とは区別する方が妥当であろう。

天体観測における戦略、それは「天候・地理的な条件の確認」である。定義として定めるならば「観測目標を指定期間中に可及的速やかに達成すべく天文戦術行為を組み合わせる活動」とする方が適切であるが、実際に行われる活動に従って述べるならば「天候・地理的な条件の確認」とする方が理解し易いだろう。これは、具体的にいえば「天候を考えた上での行動計画の作成」「観測に適した土地の選定」のことを指す。観測に適した土地の選定は、一般人にもよく知られるところだろう。光害が少なく、視界が開けており、観測機材を設置しても問題のない、長時間の占有が可能な土地が望ましい。その上で宿泊地などの拠点を確保できるならばなお良い。ただし、拠点の確保については、後述する通り他の分野にも関わる部分である。

これら地理的条件の模索と比較すると、「天候を考えた上での行動計画」の重要性については、一般人からの認知度は低いのが現状である。これは「天候が回復した場合、それを確認して観測を行う」などという安易なものではない。各種媒体から天候の変動予測情報を集め、それより各天候に合った行動を行う。これが天文戦略学*1の基礎である。統率者には「如何なる気象変動に対してもある程度の対応が可能である行動計画の構築と実行指揮」及び「信頼の置ける媒体からの情報を常時確保できる状態を保ち、その時々において適切な判断を下すこと」が必要になる。

天文戦略学において「待機」は、ある意味では「観測」よりも重要な意味を持つ。観測における各種行動は戦術の範疇であるが、待機においてはその時間の運用方法が全てであると言って良く、従って戦略の範疇であると言える。この待機において重要になるのは、「各位の士気と体力を保持しつつ、天候に合わせて時間を消費する」という点である。

例えば「夜の間、好天の可能性が無に等しいならば体力温存のため睡眠を取る」という行動は、観測日以外の日に授業や仕事を控える隊員が取る一般的な行動である。だが、各位の生活習慣の崩壊によるリスクが少ない長期休暇中であれば、「夜の間、好天の可能性が無に等しいが、翌日好天の可能性があるため、夜型の生活に体を慣れさせるべく寝ずに待機する」という方が正しい。何故なら、各位の士気と体力を確保するには、観測に適した夜型生活をとらせることが最も効率的で適切な行動だからである。

だが、短期的な目的を持たない待機は各位の士気を損なう結果を招きかねない。天体観測という行為は「特定の対象を観測する」という明確な目標指定をしない限り、観測行為そのものが目的と同一視される。この状態では、実質的には観測が可能になった時点で戦略的な最終目的が達成されたことになり、結果として天候の回復という不確定要素にほぼ全てが左右される状態となる。観測行為そのものを目的としても、観測行為が実行可能か否かを長距離移動などの各位の意思決定からなされる戦略的行動において変えることが出来るならば、待機を行う必要はなく士気は低下しない。だが、宿泊地の固定や資金面の限界によって、天候回復を待機する以外の選択肢が封じられた状態では、もはや各位に意思決定などという段階は存在せず、そして待機中の行動も最終的に得られる成果に一切影響しない。これを避けるためには、各位の意識を観測行為の実行対象にまで向ける必要があるが、一切の戦術的行動を伴わずにそれらにより得られる成果へ意識を向け続けるというのは困難である。結果として待機においては、一時的に最終目的とは別に仮の目的を用意し、それらを継続的に提示することで士気の低下を防ぐことが必要になる。これを実行するための具体的な手段については長らく議論が繰り返されていたが、現在の天文戦略学においてはある一つの結論が導き出されている。

ゲームである。

一般的にはス◯ブラやマ◯オカートが最適とされている。モ◯ハンなども適切であるとされるが、複数人が自身のハード及びソフトを持ち寄らなければならないモン◯ンより、1 名がハードとソフト、場合によってはそれに加え数名がコントローラを持ち込むことで大人数での待機が成立するスマ◯ラの方が適切であるとする意見の方が多い*2。一昔前まではアニメ等の鑑賞会が最も適切であるとされてきたが、鑑賞会は「興味のない人間が途中で寝る」「スマートフォンをいじりながら観る人間が多く、そういった人間は途中で離脱する可能性が高い」「このような行動で鑑賞会企画者が精神的ダメージを受ける」という問題点が指摘されており、近年は非常に精神力の強い企画者が存在しない場合は実施されなくなってしまった*3。結果として「大人数を半強制的に起床させ続けられる」という点においてゲームに勝るものはない、というのが、識者達*4の共通の見解である。もちろん、ある種のビデオゲームに拘る必要はなく、トランプや UNO 、TRPG や各種ボードゲームも適切であるとされる。中でも、天体観測そのものに繋がる「メシエカード」と呼ばれるカードゲームについては、スマブ◯よりも適切なのではないかと主張する者も多い。

さて、ゲームの戦略的重要性を示したところで、もう一つの分野の話をしよう。それは「兵站」である。兵站は、作戦における部隊の移動・支援を計画・実施する活動そのものを指す場合や、ある種の後方支援活動の総称的に使われることもあるが、天体観測においては食料調達行為とほぼ同義として見なされる傾向がある。赤道儀運用時の電力の確保やデジタルカメラでの天体写真撮影時のメモリーカード残量の確保(フィルムカメラならフィルムの確保)なども兵站に含まれるはずなのだが、設営を含む機材運用そのものが戦術と見なされる天文戦術学*5においてはこれらの行為についても戦術の範疇として区分することが多い。一応、山岳地帯など周囲に宿泊地が存在しない場合での拠点の設営や、宿泊地から離れた地点において観測を行う際の補給線*6の安全の確保も兵站の範疇なのだが、今回の初島での観測のように宿泊地から観測地までの距離が一定以上になることがあり得ない状態では、これらの要素は無視されることが多い。宿泊地など拠点の確保は兵站の範疇であるが、戦略の領域にも関わっているとされる。結果として、天文兵站*7は「観測地周辺での食料確保法」と同義とされることが殆どである。

天体観測合宿中の食料調達において重要なのは「何処で食料を調達できるか」「一定の資金で最大限の量の食料を調達できるか」の 2 点である。学生の短期間の合宿なので「食料の保存性」及び「食料の種類・多様性」については考慮しない。今回は素泊まりで、しかも離島での観測であったため、島に渡る前に 3 日分の食料を確保しておく必要があった。一般的に学生が素泊まりで宿泊する際の食事と言えばカップ麺とコンビニ弁当の 2 種が殆どであろう。天文兵站学においては、資金に余裕があるならば宿泊地で食事を取る、素泊まりならば自宅から用意した弁当または自宅で余っていたカップ麺等を持ち込むのが最適解とされている。拠点における調理器具の有無などが具体的に確認できない場合、非常に高い確率で常備されている電気ポッドとそれにより供給されうる熱湯に頼るしかないので、安全策としてカップ麺が選ばれることが多い。だが、我々は既に素泊まりにより適切な食料を知っていた。

うどんである。

カップ麺ではない。袋麺である。袋麺のうどんはスーパーマーケット等で 1 玉 20 円〜 30 円程度で購入できる。これらは沸騰したお湯に 2 分 〜 4 分ほど入れておけばすぐに食べられる状態になる。1 食に 2 玉食べるとしても、5 食で 200 〜 300 円程度しかかからない。あとは、麺つゆと天かすなどのトッピングをお好みで購入すれば良い。これも、合宿に関わる人間で費用を出し合えば、一人当たりの値段はかなり抑えられるはずだ。少ない金額で非常に多くの食料を確保できるうどんは、まさに最適解と言えるだろう。

食べる方法は簡単である。まず 2 L 〜 1.5 L のペットボトル飲料を用意し、それを飲み干す。数人で分け合えば清涼飲料水などすぐに無くなるだろう。そして、残ったペットボトルをカッターナイフ等で半分に切断する。そこに袋麺のうどんを入れ、そこに電気ポッドで沸かしたお湯を麺が全て浸かるぐらい加え、4分ほど待つ。しばらくしたらお湯をある程度捨て、そこに麺つゆを加える。これで暖かいうどんが完成する。あとは好きなようにトッピングを加えれば良い。ペットボトルの切り口は鋭利で危険なので、つゆを飲むことはあまりお勧めしない。

これが、全てにおいて無駄のない適切な食事である。ちなみに、平然とペットボトルのうどんを食べる光景に恐怖を覚えたのか、私以外の大半は自分で購入してきたカップカップ麺を食べた後の空き容器などでうどんを作って食べていた。常識的な行動だと思う。


そんなわけで、1 日目は◯マブラで遊び、メシエカードで遊び、アニメの視聴会をし、うどんを食べ、多少の睡眠を取って終了した。

だが、これらは「何もしていない」のではない。この天候においては適切な行動であり、素晴らしい観測を行う上での最適解だったのである。

2 日目

2 日目は曇天ではあったが、既に雨は止んでいた。予報では翌早朝に晴れる見込みとされてはいたが、その時には雲間一つない完璧な曇天であった。レイヤーを 5 つぐらい重ねてそうな雲の下では、まだ見ぬ星空に向けた睡眠を取る気にすらなれず、結果的に多くの会員が島の散歩へと繰り出して行った。

初島は島の直径が 1 km あるかないかくらいなので、数時間あれば島を一通り巡ることができる。もちろん灯台や初木神社などの見所は多く、釣りをしたり海岸でたそがれたり猫を眺めていたりすれば何時間でも楽しむことができる。道もかなり整備された道が多く、島の地図もいろんなところに設置されているので、迷ったりすることはまずない。「整備された道は好きじゃない!」という人もいたが、大半の人にとっては散歩に適した素晴らしい島であると言えるだろう。

キング・プロテアと呼ばれる植物。友人がこれ見てなんか興奮してた

春って感じがする公園

にゃーん

対岸を眺めながら

結局、2 日目は、各位がぶらぶらと散歩をし、その後ゲーム等で時間を軽く潰して 1 日が過ぎた。

3 日目

3 日目の 2 時ごろには天候が回復するというのが、天気予報の予測であった。我々は、 2 日目の 22 時半より 1 時間ごとに外へ天候の確認に向かいつつ待機するという戦略を取った。確認する一部メンバー以外は、睡眠を取ることで昼間の散歩の疲れを癒していた。余裕のあるメンバーはいつも通りスマ◯ラをしたり、アイドルをプロデュースしたり、画面の向こうの女の子と親睦を深めたりしていた。

天候が回復したのは、3 日目の 2 時半頃であった。その時にはまだ部分的な回復であり、起きていた会員数名で様子を見る程度であったが、用意が完了し各会員が外に出た頃にはかなり天候が回復しており、天頂部とその周辺に関して言えば雲は殆ど消えていた。すぐに全会員に緊急招集がかかり、我々はいくつかの班に分かれ観測を開始した。

遠く輝く ATAMI

かんむり座(中央)と流星(左下)

灯台

木と星

電柱と星空

5 時頃には再び天候が悪化し始めたため、結果的には2時間程度しか観測できなかった。まあ、雨天続きで一切観測出来なかったこともあったので、それに比べれば上出来と言えるだろう。

その後は、片付けをし軽く睡眠を取ってから宿を後にした。今回宿泊させていただいた「浜の内」さんは、夜中にドタバタしたり片付けが遅かったりとかなり迷惑をおかけしたのだが、笑顔で送り出していただいた。その上、俺が個人的に忘れ物をしたのを、帰りの船を待っているところに届けていただいたりもした。本当に感謝してもしきれない。

帰りの船は揺れが小さく、空も雲の切れ間から少し青空が見える程度には良い天気であった。

もちろん、曇っていることに変わりはない

まとめ

最後に、天体観測において、戦略的に最も重要であり、これを確保するか否かに全てがかかっているとまで言われる重要な要素を紹介しよう。

晴れ男・晴れ女である。


晴れ男・晴れ女がいるというのは、天体観測においては勝利宣言に等しい。それだけで観測が 9 割方成功したようなものである。

そんなわけで、我らが宇宙科学総合研究会 LYNCS では晴れ男・晴れ女を絶賛募集中である。その自覚がある方・自覚はないが指摘されたことのある方は是非来て欲しい。いや本当に。


あ、晴れ男・晴れ女以外の会員も絶賛募集中です。

*1:今作った

*2:要出典

*3:でも割とたくさんいる。

*4:約 1 名

*5:これも今作った

*6:天体観測においては観測地と宿泊地等の拠点を結ぶ交通路を指す

*7:もちろん今作った